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研究内容

研究背景

人工関節

 生体の可動関節において変形性関節症や関節リウマチの症状が生じた場合,運動機能の低下および疼痛が発生します.そこで,症状が進行した場合には人工関節置換術が施され,運動機能の回復ならびに疼痛の除去という恩恵が得られます.しかし,一部では人工関節材料の微小摩耗粉に対する生体反応に起因して骨融解が生じ,人工関節の再置換手術を余儀なくされる場合があります.超高齢社会の進展に伴う需要の増加,さらには若年層への適用例の増加もあいまって,人工関節の長寿命化は解決すべき早急な課題です.

 現在,人工関節材料の摩耗を低減するために,主要材料である超高分子量ポリエチレンや耐食性金属(CoCr合金等)やセラミックス(アルミナ等)のバルク特性,表面特性の改善による摩耗低減策が講じられています. これにより,人工関節材料の低摩耗化は進んでいますが,依然として微小摩耗粉による生体反応の問題は未解決のままとなっています.

生体関節潤滑

 生体関節は体重の数倍の負荷を受けながらも,摩擦係数0.003~0.02の低摩擦を示し,80年以上の耐久性(耐摩耗性)を有する優れた軸受システムです.生体関節の潤滑は,定常歩行時は表層の関節軟骨の弾性変形に起因した弾性流体潤滑機構が主体とされています.しかし,長期立位静止後からの運動時においては軟骨同士が直接接触する機会が生じます(境界・混合潤滑状態).この際,軟骨からの水分の滲み出しによる滲出潤滑,関節液中の吸着成分による境界潤滑,軟骨表層に存在するプロテオグリカン凝集体が形成するゲル膜による表面ゲル水和潤滑,軟骨内の液相成分が荷重を支持し摩擦を低減する二相性潤滑などが階層的・協調的に機能することにより,生体関節の極低摩擦・極低摩耗は実現されていると考えられています.生体関節のこの巧みな潤滑機構は,多モード適応潤滑機構と称されます.

 しかし,現在の人工関節においては境界・混合潤滑状態が主体とされ,生体関節の巧みな潤滑メカニズムを再現するには至っていません.そこで,未解明な部分が存在する生体関節の潤滑メカニズムを解明し,それらのメカニズムを導入した"生体に学ぶ人工関節"を創製することが,人工関節のさらなる摩擦・摩耗低減,しいては"ゼロ摩耗"の実現へつながると当研究グループでは考えています.


生体軟骨の階層構造(左)および生体関節の多モード適応潤滑モデル(右)


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ハイドロゲル人工軟骨

 "生体に学ぶ人工関節"の実現に向け,当研究グループが着目したものは,生体軟骨と同様の弾性率・含水率を有する"高含水ハイドロゲル"を人工軟骨として導入することです.これまでに,ポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲルを人工軟骨候補材料として用い,膝関節シミュレータによる評価および数値計算による流体潤滑膜厚の算出を行ったところ,PVAハイドロゲルは生体模擬環境下において最小で摩擦係数0.01レベルの低摩擦を実現すること,理論流体潤滑膜厚が超高分子量ポリエチレンを用いた場合と比較して飛躍的に増加することを明らかにしました.


歩行時膝関節の流体潤滑膜厚および摩擦挙動


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本プロジェクトの目的

 従来の研究により,ハイドロゲルを人工関節摩擦面に導入することによって摩擦特性の大幅な改善が見込まれることが明らかとなりました.しかし,臨床応用を見据えた際には,耐久性(耐摩耗性)の改善ならびに生体関節を規範としたさらなる高機能化は必須となります.
 そこで,本プロジェクトでは上記課題を解決すべく,機械工学(バイオメカニクス・バイオトライボロジー)ゲル材料学(バイオマテリアル)整形外科学(バイオメディカル)の研究者が結集いたしました.そして,各研究グループが密に連携をとり合い,生体関節潤滑機構の解明,ハイドロゲルの高機能化そして人工軟骨の臨床応用技術を確立し,"ゼロ摩耗"超潤滑ハイドロゲル人工軟骨の実現を目指します.




 本プロジェクトのグループごとの研究概要につきましては,以下をご覧ください.

バイオメカニクス・バイオトライボロジー分野
バイオマテリアル分野
バイオメディカル分野